マスコミ免罪符「申し合わせ」

ワイドショーで、何かの事件で亡くなられた遺族の葬儀のシーンや、被害児童の同級生が「どう思った?」なんてカメラを向けられているシーンが、神妙な顔のコメンテーターの一言と共に、公共電波として全国に放送されている事に違和感を感じ、『節度ある取材を申し合わせた』記録とその関連記事をまとめてみた。

京都の件

遺族が報道自粛など要請文 京都女児殺害
2005年12月10日22時20分

 殺害された堀本紗也乃さんの遺族は10日午後、京都府警を通じて報道各社に報道の自粛などを要請した。全文は次の通り。

 妻も9歳の長男も大変なショックを受けており、今はただ家族・親族で静かに長女の冥福を祈る時間をいただきたいと思います。また、子どもの同級生を始め、学校関係者や近隣の方々に御迷惑をお掛けすることは避けたいと思いますので、インタビューや撮影につきましては、御遠慮いただくようお願いいたします。私どもの心情をお汲(く)みとりいただくよう、切にお願い申し上げます。

平成17年12月10日
堀本恒秀

親族一同

いつも、こういうときに何で遺族がマスコミに「報道の自粛」なんてお願いしなければいけないのか、と思ううんだが…この記事の7分後の更新で「節度ある取材を申し合わせた」とのこと。

「節度ある取材」報道各社申し合わせ 京都女児殺害
2005年12月10日22時27分

 堀本紗也乃さんの遺族からの要請を受け、京都の報道各社でつくる在洛新聞放送編集責任者会議(新聞、放送、通信の計13社加盟)は10日、「節度ある取材・報道」を申し合わせた。

 申し合わせでは、「被害者家族をはじめ周辺住民、学校など関係者の心情やプライバシー、人権に配慮しつつ、節度を持って取材・報道に当たる」としている。

申し合わせをしてはいるんだが、この遺族の「報道自粛願い」の更新の5分前にはこんな記事を掲載している

亡くなった紗也乃さん、明るくまじめ 京都女児殺害
2005年12月10日22時15分

 「昨日も一緒に学校で遊んだ。おもしろくて明るい子だったのに」。亡くなった紗也乃さんと同じクラスで、ソフトバレーボール部でのクラブ活動も一緒だった女子児童(12)は、女児が亡くなったと聞いて泣き出した。

 紗也乃さんは今年4月に東京都から転校してきたが、以前に宇治市内に住んだことがあった。小学1年から3年の2学期までは市内の別の学校に通い、3年の3学期にはいったん神明小で学んだ。その後、東京都内へ移ったが6年になって再び同校に転校してきたという。勉強ができ、校内の飼育委員会に所属していた。まじめな性格だったという。

 今月13日に学芸会があり、紗也乃さんのいた6年1組は現代劇をする予定で練習に励んでいたという。

 紗也乃さんの通学する様子を覚えている近所の女性は、「朝は集団登校する際に、いつも列の後ろから低学年の子を見守るように歩いていた」と振り返った。

人の話を全く聞いちゃいない。まさかこの22時15分の時点で、遺族からの「報道自粛願い」が届いていなかったとは考えにくい。

このような「節度ある取材」の申し合わせはここ最近度々なされている。
京都の事件の一週間ほど前にも「節度ある取材」申し合わせがあった。

栃木の件

栃木小1殺害:「悲しさでいっぱい」父親が文書

吉田有希ちゃん=05年11月初旬ごろ撮影 下校中の栃木県今市市の大沢小1年、吉田有希ちゃん(7)が殺害され、遺体を遺棄された事件で3日、有希ちゃんの父正信さん(41)は、合同捜査本部を通じ、心境と取材の自粛を求める文書を出した。文書では「私たち家族は、大切な有希を失った悲しさと悔しさでいっぱいです。一日も早く犯人を捕まえてもらいたいと願っています」と、事件の早期解決を求めた。

 また「私たちは、静かに有希の冥福を祈りたいと思っています」として、報道機関に自宅敷地内への立ち入りなどを自粛するよう要請家族や親類、近隣住民や学校に対する撮影やインタビューも控えるよう求めた

 この文書を受け、栃木県内に取材拠点を置く新聞社・通信社・放送局計13社でつくる県報道代表者会は3日、「被害に遭われた家族をはじめ、周辺住民、学校などの関係者の心情やプライバシー、人権に配慮しつつ、各社の自主的な判断で節度を持って取材・報道にあたる」ことなどを申し合わせた。
毎日新聞 2005年12月3日 22時59分 (最終更新時間 12月3日 23時25分)

この事件のさらに一週間前、広島でも申し合わせ

広島の件

広島・小1女児殺害:節度ある取材、各社申し合わせ−−県編集責任者会
 広島市で小1女児が殺害された事件で、広島県内に取材拠点を置く新聞社・通信社・放送局計16社でつくる県編集責任者会は23日、「取材・報道の使命の重要さを認識するとともに、被害者家族など関係者の心情やプライバシー、人権に配慮し、節度をもって取材・報道に当たる」ことを申し合わせた。事件の被害者宅周辺などでメディアスクラム(集団的過熱取材)が起きるのを、未然に防ぐための対策

毎日新聞 2005年11月24日 東京朝刊

ところが「被害者家族をはじめ周辺住民、学校など関係者の心情やプライバシー、人権に配慮しつつ、節度を持って取材・報道」ができていなかったようで、遺族が再度お願い。↓

遺族が再度取材自粛を要請 あいりちゃんの父

 広島市安芸区で殺害された小学1年木下あいりちゃん(7つ)の父建一さん(38)は28日付で、広島県警を通じ、報道各社にあらためて取材の自粛を求める文書を出した。
 県警によると、建一さんら遺族は、熊本県で行われた女児の葬儀を終え、28日に広島市の自宅へ戻り「引き続き節度ある取材を継続してほしい」と文書を公表したという。
 文書は「今は、あいりのことを静かに偲んでおり、取材をお受けする心の準備ができておりません」とし、家族や関係者への取材や写真撮影を自粛するよう求めている。
 建一さんは、22日にも取材自粛を求める文書を出し、広島県編集責任者会は23日、「プライバシー、人権に配慮し、節度を持って取材、報道に当たる」との申し合わせをした。
共同通信) - 11月29日20時43分更新

この広島県編集責任者会は昨年の同時期に起こった殺人事件でも「節度ある取材」

◎[投 稿]報道幹部が節度ある取材呼び掛け〜広島の女子高生刺殺事件
10月5日に広島県廿日市市で起きた女子高生が刺殺され祖母が重体となった事件の取材で、地元の新聞、放送、通信社の報道機関でつくる広島県編集責任者会は「節度ある取材を心掛ける」よう加盟各社に呼び掛けている。地元のNHKと民放テレビ4社は通夜・葬儀を代表取材とする申し合わせをした
 この事件は被害者が高校2年の女子生徒、発生時間がまだ明るい午後3時ごろということもあって、テレビ各社の絶好のワイドショーネタになり、カメラクルーも取材に駆け付けた。地元に本社、支社局を置く報道各社は、遺族や関係者への取材に慎重な姿勢で臨んだようだが、地元住民からは「通学路を(カメラ取材用の)脚立がふさいでいる」「同級生や教諭に執拗な取材をしている」といった苦情が寄せられたという。地元の記者クラブメディアスクラム状態と見られかねないとして、秩序ある取材を求めた。

「NHKと民放テレビ4社」ってことは、「新聞社・通信社・放送局計16社」のうち11社は広島県編集責任社会の呼びかけを無視した、ってことなんでしょうか?

静岡の件

今年11月にも「節度ある取材」

節度ある取材申し合わせ タリウム事件で報道14社キャッシュ

 母親(47)に劇物タリウムを摂取させたとしたとして、静岡県伊豆の国市の県立高校1年の女子生徒(16)が逮捕された事件で、同県内の新聞、通信、放送計14社で構成する静岡支局長会と静岡社会部記者会は3日、女子生徒の自宅や周辺取材について「節度ある姿勢で臨む」ことを申し合わせ、家族側の了解を得た。
 家族側が同日、電話を含む取材自粛を要請したことを重く受け止め、申し合わせに反する取材活動があった場合は、同記者会を窓口として適切に対処することを決めた。
 同支局長会と同記者会の加盟社は次の通り。(五十音順)
 【新聞社】朝日新聞産経新聞静岡新聞、中日・東京新聞日本経済新聞毎日新聞、読売新聞【通信社】共同通信時事通信【放送】NHK、静岡朝日テレビ静岡第一テレビ静岡放送テレビ静岡
共同通信) - 11月4日0時0分更新


「申し合わせ」は免罪符じゃありません。